●退転の戒め
▲善に付け悪につけ法華経をすつるは地獄の業なるべし。(開目抄 572
▲我が身は過去に謗法の者なりける事疑ひ給ふことなかれ。此を疑って現世の軽苦忍びがたくて、慈父のせ(責)めに随ひて存の外に法華経をす(捨)つるよしあるならば、我が身地獄に堕つるのみならず、悲母も慈父も大阿鼻地獄に墮ちてともにかな(悲)しまん事疑ひなかるべし。(兄弟抄 建治二年四月 五五歳 981)
▲各々随分に法華経を信ぜられつるゆへに過去の重罪をせ(責)めいだし給ひて候。たとへば鉄(くろがね)をよくよくきた(鍛)へばきず(疵)のあらわるヽがごとし。981
▲雪山童子の前に現ぜし羅刹は帝釈となり、尸毘王(しびおう)のはと(鳩)は毘沙門(びしゃもん)天ぞかし。十羅刹心み給はんがために父母の身に入らせ給ひてせ(責)め給ふこともやあるらん。それにつけても心あさ(浅)からん事は後悔あるべし。981
▲今度ねう(忍)しくらして法華経の御利生(りしょう)心みさせ給へ。日蓮も又強盛に天に申し上げ候なり。いよいよをづ(臆)る心ねすがた(姿)をはすべからず。981
▲定んで女人は心よは(弱)くをはすれば、ごぜん(御前)たちは心ひるがへ(翻)りてやをはすらん。981
▲がうじやう(強盛)にはが(歯噛)みをしてたゆ(弛)む心なかれ。981
▲なにとなくとも一度の死は一定(いちじょう)なり。いろ(色)ばしあ(悪)しくて人にわら(笑)われさせ給ふなよ。981
▲一生が間賢なりし人も一言に身をほろ(亡)ぼすにや。981
▲一切はをや(親)に随ふべきにてこそ候へども、仏にな(成)る道は随はぬが孝養の本にて候か。983
▲設(たと)ひいかなるわづら(煩)はしき事ありとも夢になして、只法華経の事のみさはぐ(思索)らせ給ふべし。987
▲今度はとの(殿)は一定を(落)ち給ひぬとをぼ(覚)うるなり。をち給はんをいかにと申す事はゆめゆめ候はず。但地獄にて日蓮をうらみ給ふ事なかれ。しり候まじきなり。千年のかるかや(苅茅)も一時にはひ(灰)となる。百年の功も一言にやぶれ候は法のことわり(理)なり。(兵衛志殿御返事 建治三年一一月二〇日 五六歳 1183