● 信心
▲信は道の源功徳の母と伝へり（念仏無間地獄抄建長七年三四歳 38）

▲男此の経を信じまひらせて聴聞するならば、提婆達多程の悪人だにも仏になる。まして末代の人はたとひ重罪なりとも多分は十悪をすぎず。まして深く持ち奉る人、仏にならざるべきや。51

▲畜生たる竜女だにも仏に成れり。まして我等は形の如く人間の果報なり。彼が果報にはまされり。争（いか）でか仏にならざるべきやと思（おぼ）し食（め）すべきなり。51

▲随喜と申すは随順の義なり。（唱法華題目抄　221）

▲さればこの経の題目をとなえさせ給はんにはをぼしめすべし。生盲の始めて眼あきて父母等をみんよりもうれしく、強きかたきにとられたる者のゆるされて妻子を見るよりもめづらしとをぼすべし。（法華題目抄　355）

▲法理をもしらず煩悩をもしらずといへども、只信ずれば見思・塵沙・無明の三惑の病を同時に断じて、実報寂光の台にのぼり、本有三身の膚を磨かん事疑ひあるべからず。
されば伝教大師云はく「能化所化倶に歴劫無く、妙法経力即身成仏す」と。法華経の法理を教へん師匠も、又習はん弟子も、久しからずして法華経の力をもて倶に仏になるべしと云ふ文なり。（408）

▲此の妙法蓮華経を信仰し奉る一行に、功徳として来たらざる事なく、善根として動かざる事なし。（408？）

▲汝今一念随喜の信を致す、函蓋相応・感応道交疑ひ無し。（408）

▲但し御信心によるべし。つるぎ（剣）なんども、すヽ（進）まざる人のためには用ふる事なし。法華経の剣は信心のけなげ（健気）なる人こそ用ふる事なれ。鬼にかなぼう（金棒）たるべし。684

▲あひかまへて御信心を出だし此の御本尊に祈念せしめ給へ。何事か成就せざるべき。「充満其願、如清涼池」「現世安穏、後生善処」疑ひなからん。684

▲天たすけ給へと強盛に申し候。686

▲何なる世の乱れにも、各々をば法華経・十羅刹（らせつ）助け給へと、湿（しめ）れる木より火を出だし、乾（かわ）ける土より水を儲（もう）けんが如く強盛に申すなり。718

▲日蓮をつえはしら（杖柱）ともたのみ給ふべし。けは（嶮）しき山、あしき道、つえをつきぬればたをれず。殊（こと）に手をひかれぬればまろ（転）ぶ事なし。南無妙法蓮経は死出（しで）の山にてはつえはしらとなり給へ。釈迦仏・多宝仏・上行等の四菩薩は手を取り給ふべし。

▲此の法華経は信じがたければ、仏、人の子となり、父母となり、め（妻）となりなんどしてこそ信ぜさせ給ふなれ。（こう入道殿御返事文永一二年四月一二日　　五四歳　795

▲信なくして此の経を行ぜんは手なくして宝山に入り、足なくして千里の道を企（くわだ）つるがごとし。814

▲今の法華経の文字は皆生身の仏なり。我等は肉眼（にくげん）なれば文字と見るなり。たとへば餓鬼は恒河（ごうが）を火と見る、人は水と見、天人は甘露と見る。水は一なれども果報にしたが（随）て見るところ各別なり。
此の法華経の文字は盲目の者は之を見ず、肉眼は黒色と見る。二乗は虚空と見、菩薩は種々の色と見、仏種純熟せる人は仏と見奉る。されば経文に云はく「若し能く持つこと有らば即ち仏身を持つなり」819

▲「必ず心の固きに仮（よ）りて神の守り則ち強し」897

▲身つよき人も、心かひなければ多くの能（のう）も無用なり。897

▲源濁（にご）れば流れ清からず　913

▲教主釈尊をうごかし奉ればゆるがぬ草木やあるべき、さわがぬ水やあるべき。（日眼女釈迦仏供養事　　　弘安二年二月二日　　五八歳　1352

▲かつ（餒）へて食をねがひ、渇（かっ）して水をしたうがごとく、恋て人を見たきがごとく、病にくすりをたのむがごとく、みめかたち（形容）よき人、べに（紅）しろいものをつくるがごとく、法華経には信心をいたさせ給へ。さなくしては後悔あるべし云云　1361

▲前々の用心といひ、又けなげ（健気）といひ、又法華経の信心つよき故に難なく存命せさせ給ふ。目出たし目出たし。（四条金吾殿御返事　　　弘安二年一〇月二三日　　五八歳　1407

▲これにつけてもいよいよ強盛に大信力をいだし給へ。我が運命つきて、諸天守護なしとうらむる事あるべからず。1407

▲いかに日蓮いのり申すとも、不信ならば、ぬ（濡）れたるほくち（火口）に火をう（打）ちか（掛）くるがごとくなるべし。はげみをなして強盛に信力をい（出）だし給ふべし。1407

▲なにの兵法（ひょうほう）よりも法華経の兵法をもち（用）ひ給ふべし。「諸余怨敵（しょよおんてき）皆悉摧滅（かいしつさいめつ）」の金言むなしかるべからず。兵法剣形の大事も此の妙法より出でたり。ふかく信心をとり給へ。あへて臆病にては叶ふべからず候。1407

▲此の経にあ（値）ひ奉りぬれば悦び身に余り、左右の眼に涙浮かびて釈尊の御恩報じ尽くしがたし。1457

▲有解無信（うげむしん）とて法門をば解（さと）りて信心なき者は更に成仏すべからず。有信無解とて解（げ）はなくとも信心あるものは成仏すべし。1461

▲夫（それ）信心と申すは別にはこれなく候。妻のをとこ（夫）をおしむが如く、をとこの妻に命をすつるが如く、親の子をすてざるが如く、子の母にはなれざるが如くに、法華経・釈迦・多宝・十方の諸仏菩薩・諸天善神等に信を入れ奉りて、南無妙法蓮華経と唱へたてまつるを信心とは申し候なり。しかのみならず「正直捨方便（しょうじきしゃほうべん）、不受余経一偈（ふじゅよきょういちげ）」の経文を、女のかゞみ（鏡）をすてざるが如く、男の刀をさすが如く、すこしもす（捨）つる心なく案じ給ふべく候。（妙一尼御前御返事　　　弘安三年五月一八日　　五九歳1467

▲叶ひ叶はぬは御信心により候べし。全く日蓮がとが（咎）にあらず。水す（澄）めば月うつ（映）る、風ふけば木ゆ（揺）るぐごとく、みなの御心は水のごとし。信のよは（弱）きはにご（濁）るがごとし。信心のいさぎ（潔）よきはす（澄）めるがごとし。（日厳尼御前御返事　弘安三年一一月二九日　五九歳　1519

▲第一　信解品の事　（中略）此の信の字は元品（がんぽん）の無明を切る所の利剣なり。其の故は、信は無疑曰信（むぎわっしん）とて疑惑を断破（だんぱ）する利剣なり。解とは智慧の異名なり。信は価の如く解は宝の如し。三世の諸仏の智慧をかうは信の一字なり。智慧とは南無妙法蓮華経なり。信は智慧の因にして名字即なり。信の外に解無く、解の外に信無し。信の一字を以て妙覚の種子と定めたり。今日蓮等の類南無妙法蓮華経と信受領納する故に無上宝聚（むじょうほうじゅ）不求自得（ふぐじとく）の大宝珠を得るなり。信は智慧の種なり、不信は堕獄の因なり。1737

▲第五　無上宝聚（むじょうほうじゅ）不求自得（ふぐじとく）の事　（中略）宝聚とは、三世の諸仏の万行万善諸波羅蜜（しょはらみつ）の宝を聚（あつ）めたる南無妙法蓮華経なり。此の無上宝聚を辛労（しんろう）も無く行功も無く一言に受け取るは信心なり。不求自得とは是なり。

●一心一念法界に遍
妙楽大師の「当に知るべし身土一念三千なり。故に成道の時、此の本理に称（かな）ひて一心一念法界に遍（あまね）し」と釈するは此の意なり　（御義口伝　1744）

●器
器に四つの失（とが）あり。
一には覆（ふく）と申してうつぶけるなり。又はくつがへす、又は蓋（ふた）をおほふなり。
二には漏（ろ）と申して水もるなり。
三には・（う）と申してけがれたるなり。水浄けれども糞（ふん）の入りたる器の水をば用ふる事なし。
四には雑（ぞう）なり。飯に或は糞、或は石、或は沙（すな）、或は土なんど雑（まじ）へぬれば人食（く）らふ事なし。
器は我等が身心を表はす。我等が心は器の如し。口も器、耳も器なり。法華経と申すは、仏の智慧の法水（ほっすい）を我等が心に入れぬれば、
或は打ち返し、或は耳に聞かじと左右の手を二つの耳に覆（おお）ひ、或は口に唱へじと吐き出だしぬ。譬（たと）へば器を覆（ふく）するが如し。
或は少し信ずる様なれども又悪縁に値ひて信心うすくなり、或は打ち捨て、或は信ずる日はあれども捨つる月もあり。是は水の漏（も）るが如し。
或は法華経を行ずる人の、一口は南無妙法蓮華経、一口は南無阿弥陀仏なんど申すは、飯に糞を雑（まじ）へ沙石（いさご）を入れたるが如し。秋元御書　　　弘安三年一月二七日　　五九歳　1447

▲一　異念無く霊山浄土へ参るべき事
　仰せに云はく、異念とは不信の事なり。若し我が心なりとも不信の心出来せば忽（たちま）ちに信心に住すべし。所詮不信の心をば師となすべからず。信心の心を師匠とすべし。浄心信敬に法華経を修行し奉るべきなり。1857
▲此の本法を受持するは信の一字なり。元品の無明を対治する利剣は信の一字なり。無疑曰信（むぎわっしん）の釈之（これ）を思ふべし云云。就註法華経口伝　上　1764

問う、正しく鈍根の相、如何。
　　答う、弘二末十一に法句経第一を引いて云く「盤特出家す。仏、五百の阿羅漢をして日々之に教えしむ。三年にして始めて一偈を獲たり。謂く、口を守り、意を摂り、身に犯すこと莫し。是くの如き行者、世を度することを得んと云云。又掃箒を誦せしむ」等云云。此くの如き鈍根と雖も但一念の信あり。普明如来と成れり。統紀第六十七の天台大師伝に云く「時に僧尼類多く業無し。朝議、経に通ぜざる者を策して皆道を休めしめんと欲す。師之を諌めて云く、調達は日に万言を誦して未だ淪墜を免れず。盤特は唯一偈を憶して乃ち四果を得たり。篤く道の為に論ずれば、豈多誦に関らんや。少主大いに悦び、即ち捜簡を停む」云云。像法すら尚爾なり。況や末法をや。祈雨抄十九八に云く「すりはむどくは三箇年に十四字を暗にせざりしかども仏に成りぬ提婆は六万蔵を暗にして無間に堕ちぬ・是れ偏に末代の今の世を表するなり、敢て人の上と思し食すべからず」等云云。撰時抄上九に云く「彼の天台の座主（東寺七大寺の碩学）よりも南無妙法蓮華経と唱うる癩人とはなるべし」と判じたまう、これなり。
一、又迦葉舎利弗等文。（九四〇㌻）
　　これ下根に次いで中・上二根を挙ぐるなり。有解というと雖も有解に依って仏道を成ずるに非ず。唯有信に由って入ることを得るなり。故に「信を以て入ることを得たり、己が智分に非ず」云云。
一、疑を生じて信ぜざらん者等文。（九四一㌻）
　　文の元意は、本門寿量の教主の金言に於て疑を生じて信ぜざる者は即ち当に悪道に堕すべしとなり。題目抄文段正徳六丙申六月十三日　大貳日寛記す　662

■　「信を以て入ることを得、己が智分に非ず」とて、智慧第一の舎利弗も但此の経を受け持ち信心強盛にして仏になれり。己が智慧にて仏にならず（新池御書　弘安三年二月五九歳　1461）

■　止観の四に云はく「仏法は海の如し、唯信のみ能く入る」と。（日女御前御返事　弘安二年八月二三日　五八歳　1388）