この敬台院という方の信仰姿勢は、確かに大いに問題があったと推測され
る。
以下日亨上人の解説である。
■ 敬台院妙法日詔より大石寺衆檀へ状、(中略)法詔寺より精師を晋山(
しんざん)せしめ永代総本山の後見せんとの意にて、大石寺衆檀より後任
は法詔寺より迎ふるの請書を出さしめ、其返礼に七百余両を提供して総本
山方丈の維持を謀られし文書なり、(富要8・55)
これは、前出の敬台院の書状の概説である。
これだけではなく、
敬台院は日精上人と隙が生じている時に、大石寺僧俗方へ以下のようにま
で書き送っている。
【通解】
この度、登山して申し入れます。
日精上人御筆の曼荼羅一幅を、最前智うん房に返したいと思うけれども、
あなた方は大石寺僧俗方の返信の内容を知らない。自分の方から(御当代
上人である)日精上人の曼荼羅を返却したならば、誰かが以下のように自
分らを蔑むであろう、「日興上人の御法門はそのまま御当代御法主上人へ
伝わっているにもかかわらず、その貫首を見限って、本迹一致派の邪義へ
転落するか、はたまた、過去からの悪業に引かれて爾前経(禅・念仏・真
言など)へ墜ちるか、」と疑われることは間違いないと思って、忠右衛門
が帰って来て、あなたがたからの返事の様子では返そうと思って、一度は
智うん房に引き延ばしにしていたけれでも、今、忠右衛門にみんなが言っ
た内容や、またかくげんに送られた書状に、我らの心中もみんなの心中に
も疑わしいことはないということなので、いよいよ、悪魔外道の魔王を仏
の御計らいでことごとく打ち払ってくださり、これより先は内外共に一筋
に信心を励まし、道心も深くなるようにと思って、我らの持仏堂には御開
山日興上人の曼荼羅を懸けて御安置させていただく。日精上人の曼荼羅は
見る度ごとに悪心が増してくるので、大石寺の僧侶方へお返しします。何
と思われようともあなたたちの勝手です。そのように心得ていてください
。
以上の言動を見るにつけ、これはやはりかなり信仰姿勢に問題があったと
思わざるを得ない。
しかし、日精上人は敬台院のここまで、非礼・無礼な振る舞い、?慢謗法
行為にもかかわらず、その横暴を堪え忍び、大きな御心で包み込んで慰撫
教導されたが故に、敬台院は当流から去る、という大退転はせずに済み、
後には正信を取り戻して日精上人の元に戻り、後々まで当宗の信仰を続け
る事が出来たのである。
その過程には我々が今の世からは到底窺い知ることができないご苦労があ
ったであろうと思いを馳せる時、感涙を押さえる事ができない。