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六　本門の戒壇　

①　義事の戒壇。

一般に戒壇とは、戒を授ける壇をいう。

日蓮大聖人の仏法では、本門の戒壇とは本門の本尊を安置し信心修行に励む場所をいう。

本門の戒壇に事と義とがある。

義の戒壇とは、本門の本尊所住の処は、いずれの地であっても授戒の壇場としての内容が整っていて、その義が戒壇にあたるから、義の戒壇という。

例えば法華文句の第十に

■「仏其の中に住す即ち是れ塔の義」　と釈するがごときである。

正しく事の戒壇とは、広宣流布の暁に弘安二年十月十二日御建立の本門戒壇の大御本尊が安置されるところをいう。

広宣流布の時には、受戒の人が事実として参集するから事の戒壇である。

　三大秘法抄（一〇二二）には、本門の事の戒壇について

■「戒壇とは、王法仏法に冥じ、仏法王法に合して、王臣一同に本門の三秘密の法を持ちて、有徳王（うとくおう）・覚徳比丘（かくとくびく）の其の乃往（むかし）を末法濁悪の未来に移さん時、勅宣（ちょくせん）並びに御教書（みぎょうしょ）を申し下して、霊山浄土（りょうぜんじょうど）に似たらん最勝の地を尋ねて戒壇を建立すべき者か。時を待つべきのみ。事の戒法と申すは是なり。三国並びに一閻浮提の人懺悔（さんげ）滅罪の戒法のみならず、大梵天王（だいぼんてんのう）・帝釈（たいしゃく）等の来下（らいげ）して踏（ふ）み給ふべき戒壇なり。（三大秘法稟承事　弘安五年四月八日　六一歳　1595）　」　　とある。

また日蓮大聖人は

■「『南条殿御返事』
此の砌に望（のぞ）まん輩（やから）は無始の罪障忽（たちま）ちに消滅し、三業の悪転じて三徳を成ぜん。1569　」といわれている。

日蓮正宗においては、第二祖日興上人いらい、身延相承書（一六〇〇）の

■「富士山に本門寺の戒壇を建立せらるペきなり」の遺訓を堅く守って、広宣流布に邁進してきている。

しかるに日蓮宗の他門流においては、本門の戒壇について全く異論百出をくりかえしている。

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②　本門戒壇の文証。

日蓮大聖人の御書を年代順にたどって、本門の戒壇に関する御教示を拝してみよう。

前述の御文と重複する分も、敢えて挙げたい。

■　最蓮房御返事　文永九年四月一三日　五一歳

「何となくとも貴辺に去ぬる二月の比より大事の法門を教へ奉りぬ。結句は卯月（うづき）八日夜半寅（とら）の時に妙法の本円戒を以て受職（じゅしょく）灌頂（かんじょう）せしめ奉る者なり。此の受職を得るの人争（いか）でか現在なりとも妙覚の仏を成ぜざらん。若し今生妙覚ならば後生豈（あに）等覚等の因分ならんや。」　とある。

この御文にほ、三大秘法の名目が具顕されていないが、本門の本円城の始めで、即是道場の戒壇義である。

■　土木殿御返事（九六三、文永十年七月）には　（※　富木殿御返事文永一〇年七月六日　　五二歳）

「設（たと）ひ日蓮死生不定（ふじょう）なりと雖（いえど）も、妙法蓮華経の五字の流布は疑ひ無きものか。伝教大師は御本意の円宗を日本に弘めんとす。但し定慧（じょうえ）は存生に之を弘め円戒は死後に之を顕はせり。事相たる故に一重の大難之有るか。」とる。

この御文にも、いまだ三大秘法の名目があらわれていない。
そして伝教の円頓戒壇すなわち法華迹門の戒壇は、伝教の滅後に勅許があったのを例として、本門の戒壇の建立は容易なことではない、日蓮大聖人が鎌倉へ帰られることがあっても、本門の題目は必ず天下に弘まるが、本門の戒壇建立は容易ではないと暗示せられたのである。

■　法華行者値難事（九六五、文永十一年正月）（※　法華行者値難事文永一一年一月一四日　　五三歳）には

「天台・伝教は之を宣（の）べて本門の本尊と四菩薩・戒壇・南無妙法蓮華経の五字と、之を残したまふ。」とある。

いよいよ

■　法華取要抄（三三八、文永十一年五月）には

「是くの如く国土乱れて後に上行等の聖人出現し本門の三つの法門之を建立し一四天・四海一同に妙法蓮華経の広宣流布疑い無からん者か」とある。

ここで初めて三大秘法の名目が具顕されたが、この二つの御文の間接と直接と、異名と略名との互用の自然の巧妙を味わうべきである。

さらに

■　教行証御書（一二八二、文永十二年三月）には

「又彼の律宗の者どもが破戒なる事、山川の頽（くず）るヽよりも尚無戒なり。成仏までは思ひもよらず、人天の生を受くべしや。妙楽大師云はく「若し一戒を持てば人中に生ずることを得、若し一戒を破れば還って三途（さんず）に堕す」と。其の外（ほか）斎法経・正法念経等の制法、阿含（あごん）経等の大小乗経の斎法斎戒、今程の律宗忍性が一党、誰か一戒をも持（たも）てる。還堕（げんだ）三途は疑ひ無し。若しは無間地獄にや落ちんずらん、不便（ふびん）なんど立てヽ、宝塔品の持戒行者と是を��
（ののし）しるべし。
（※　其の後良（やや）有って、此の法華経の本門の肝心妙法蓮華経は、三世の諸仏の万行万善の功徳を集めて五字と為（せ）り。此の五字の内に豈（あに）万戒の功徳を納めざらんや。）仏哲では略

但し此の具足の妙戒は一度持って後、行者破らんとすれども破れず。是を金剛宝器戒（こんごうほうきかい）とや申しけんなんど立つべし。

（※　三世の諸仏は此の戒を持（たも）って、法身（ほっしん）・報身（ほうしん）・応身（おうじん）なんど何れも無始無終の仏に成らせ給ふ。此を「諸経の中に於て之を秘して伝へず」とは天台大師書き給へり。今末法当世の有智・無智・在家・出家・上下万人此の妙法蓮華経を持って説の如く修行せんに、豈（あに）仏果を得ざらんや。さてこそ決定（けつじょう）無有疑（むうぎ）とは、滅後濁悪（じょくあく）の法華経の行者を定判（じょうはん）せさせ給へり。三仏の定判に漏れたる権宗の人々は決定して無間なるべし。是（か）くの如（ごと）くいみじき戒なれば、爾前迹門の諸戒は今一分の功徳なし。功徳無からんに一日の斎戒も無用なり。）

　但し此の本門の戒の弘まらせ給はんには、必ず前代未聞の大瑞あるべし。所謂（いわゆる）正嘉（しょうか）の地動、文永の長星是なるべし。抑（そもそも）当世の人々何れの宗々にか本門の本尊・戒壇等を弘通せる。仏滅後二千二百二十余年に一人も候はず。」とある。

長文を引用したのは、本門戒の尊重すべきことを明らかにするためであり、したがって、本門戒壇の必設の意を明らかにすることにもなる。

■　報恩抄（三二八、建治二年七月）（※報恩抄　建治二年七月二一日　　五五歳）　には

「問うて云はく、天台伝教の弘通し給はざる正法ありや。（※　答ふ、有り。求めて云はく、何物ぞや。答へて云はく、三つあり、末法のために仏留め置き給ふ。迦葉・阿難等、馬鳴・竜樹等、天台・伝教等の弘通せさせ給はざる正法なり。求めて云はく、其の形貌（ぎょうみょう）如何（いかん）。答へて云はく、）一つには（※日本乃至一閻浮提（えんぶだい）一同に本門の教主釈尊を本尊とすべし。所謂（いわゆる）宝塔の内の釈迦・多宝、外（そのほか）の諸仏並びに上行等の四菩薩脇士（きょうじ）となるべし。）二つには本門の戒壇。三つには日本乃至漢土月氏一閻浮提に人ごとに有智無知をきらはず一同に他事をすてヽ南無妙法蓮華経と唱ふべし。」　とある。

さらに

■　三大秘法抄（一〇二一　弘安四年四月）には

「夫れ釈尊初成道より乃至実相証得の当初修行し給いし処の寿量品の本尊と戒壇と題目の五字なり、……戒壇とは王法仏法に冥じ仏法王法に合して……戒壇を建立す可き者か」　等云云とある。

三大秘法抄に初めて本門の戒壇の義を示されたが、その場所、その本尊、その儀相等は開示せられず、これ唯授一人の密伝として、ただ第二祖日興上人にのみ御相承あそばされたものと拝せるのである。

このことは後に明らかにする。

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③　戒壇の歴史。　　前半略

　さて末法に入って日蓮大聖人は三大秘法の大仏法を建立された。

しかして本門の戒壇については、前述のごとく三大秘法妙にくわしく述べられて後、次のごとく迹門の戒壇を破折されている。

三大秘法抄（一〇二二）には

■「此の戒法立ちて後、延暦寺（えんりゃくじ）の戒壇は迹門の理戒なれば益（やく）あるまじき処に、叡山の座主（ざす）始まって第三・第四の慈覚・智証、存外に本師伝教・義真に背きて、理同事勝の狂言を本として、我が山の戒法をあなづり、戯論（けろん）と謗ぜし故に、思ひの外に延暦寺の戒、清浄無染（しょうじょうむぜん）の中道の妙戒なりしが、徒に土泥（どでい）となりぬる事云ひても余りあり、歎きても何かはせん。彼の摩黎（まり）山の瓦礫（がりゃく）となり、栴檀林（せんだんりん）の��
棘（いばら）となるにも過ぎたるなるべし。」とある。

また伝教は小乗の戒を次のように破折している。

報恩抄（三二八）には

■「西国の観音寺の戒壇・東国下野の小野寺（おのでら）の戒壇・中国大和国東大寺の戒壇は同じく小乗臭糞（しゅうふん）の戒なり、瓦石（がしゃく）のごとし。其れを持つ法師等は野干（やかん）猿猴（えんこう）等のごとし」とある。

かくて、伝教は大乗の戒壇を建立したので、

報恩抄（三二八）には

■「されば内証は同じけれども法の流布は迦葉（かしょう）・阿難よりも馬鳴（めみょう）・竜樹等はすぐれ、馬鳴等よりも天台はすぐれ、天台よりも伝教は超えさせ給ひたり。」　とある。

　次に天台・伝教の弘過したまわざる正法として末法に三大秘法が流布されるべきことを示されたのである。

かくのごとく、伝教は迹門の理の戒壇であり、日蓮大聖人は本門の事の戒壇であられるゆえに、伝教よりも日蓮大聖人は、さらに勝れさせ給うことが明らかである。

かくて、日蓮大聖人の仏法は、本門の戒壇建立、広宣流布こそ、究極の大目的であられるのであって、そのために、本門戒壇の大御本尊も建立になり後世に相伝されているのである。

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④　本門戒壇建立の必要性。

しかるに、他の日蓮宗各派は、この日蓮大聖人の深義を知ることなく、時により、人によって本門の戒壇の建立が必要であるとか、ないとか、必要とすれば、その場所はどこである、ここであるといって騒いでいる。

そして少しも確固とした定説が出せないありさまである。

　たとえば、法華経の「是名持戒」等の文によって末法は受持即持戒であるから妙法を持つこと自体が戒を持つことであり、戒壇建立の必要はないという説がある。

しからば小乗戒、大乗戒においても戒律を持つこと自体が戒を持つことであり戒壇建立の必要はないはずなのに、現実には、なぜ小乗戒、大乗戒においても、前述したごとく小乗戒壇、大乗戒壇が建立されたのか。

小乗、大乗、迹門、本門を問わず、戒壇の建立は仏法の通軌である。

　しかして三大秘法抄に明らかなごとく、本門の事の戒壇は、広宣流布の時に建立すべき民衆立の戒壇なのである。

ゆえに第二祖日興上人の時代に、学頭たる三位日順は本門心底抄（富要2-34）に

「行者すでに出現し久成の定慧広宣流布せば、本門の戒壇それあに立たざらんや」　といっている。

　日寛上人の文底秘沈抄にほ、癡山日饒が

▼「是の処即是れ道場是なり。故に本門流布の地は皆本門の戒壇なり」と難じたのに対して、破折して

■「若し是れ本門流布の地は皆是れ本門の戒壇ならば応に是れ権迹流布の地、皆権迹の戒壇なるべし、若し爾らば如何ぞ月氏の楼至菩薩祇園の東南に更に之を建立せんや、亦復如何ぞ震旦の羅什三蔵・草堂寺に於いて別に之を建立せんや、亦復如何ぞ日域の鑑真和尚小乗の戒壇を三処に之を建立せんや、亦復如何ぞ伝教大師迹門の戒壇を叡山に之を建立せんや、権迹の戒壇既に別に之を建立す本門の戒壇何ぞ更に建てざるべけんや」　　といわれている。

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⑤　本門戒壇建立の地。

次に本門の戒壇建立の地は、三大秘法抄（一〇二二）の

■「霊山浄土に似たらん景勝の地」

とは、いかなる地であろうか。

これこそ、日本の富士山である。

日蓮大聖人の身延相承書（一六〇〇）には

■「富士山に本門寺の戒壇を建立すべきなり」

と明白に遺言されている。

また、本門戒壇の大御本尊の授与書には、明確に

■「右現当二世の為に造立件の如し、本門戒壇の願主弥四郎国重、法華講衆等敬白、弘安二年十月十二日」

とあり、

また日興上人より日日上人への譲り状たる日興跡条々の事には

■「日興が身に充て給はる所の弘安二年の大御本尊、日日に之を授与す、本門寺に懸け奉るべし」　とあり、

　百六箇抄（八六七）には

■「三箇の秘法建立の勝地は富土山本門寺本堂なり　乃至　日興嫡嫡相承の曼荼羅を以て本堂の正本尊と為す可きなり」

であり、本門戒壇の大御本尊を正式に御安置すべき正本堂こそ、本門の戒壇であり、富士山に建立すべきことを決定された。

産湯相承事（八七八）には

■　「叡山の頂に腰をかけて近江の湖水を以て手を洗ひ、富士の山より日輪の出でたまふを懐（いだ）き奉ると思ふて、

（※打ち驚きて後月水（がっすい）留まると夢物語を申し侍（はべ）れば、父の大夫我も不思議なる御夢相を蒙るなり。虚空蔵菩薩貌吉（みめよき）児（ちご）を御肩に立て給ふ。〔聖人上行菩薩の口伝、並びに是生の口伝〕此の少人我が為には上行菩提薩・なり。日の下の人の為には生財摩訶薩・なり。亦一切有情の為には行く末三世常恒の大導師なり。是を汝に与へんとの給ふと見て後、御事（おこと）懐妊の由を聞くと語り相（あ）ひたりき。さてこそ御事（おこと）は聖人なれ。
　〔聖人の御生まれ仏の御誕生に殊ならざる口伝〕
　又産生（うまれ）たまふべき夜の夢に、富士山の頂に登りて十方を見るに、明らかなる事掌（たなごころ）の内を見るが如く三世明白なり。梵天・帝釈・四大天王等の諸天悉く来下（らいげ）して、本地自受用報身如来の垂迹上行菩薩の御身（おんみ）を凡夫地に謙下（けんげ）したまふ。御誕生は唯今なり、無熱池（むねっち）の主阿那婆達多（あなばだった）竜王・八功徳水を持ち来たるべし、当に産湯に浴し奉るべしと諸天に告げたまへり。仍（よ）って竜神王即時に青蓮華を一本荷（にな）ひ来たれり。其の蓮より清水を出だして御身に浴し進（まい）らせ侍（はべ）りけり。其の余れる水を四天下に灑（そそ）ぐに、其の潤ひを受くる人畜・草木・国土世間悉く金色の光明を放ち、四方の草木華（はな）発（ひら）き菓（このみ）成る。男女座を並べて有れども煩悩無し。淤泥（おでい）の中より出づれども塵泥（じんでい）に染まざること、譬へば蓮華の泥より出でて泥に染まざるが如し。人・天・竜・畜共に白き蓮を各手に捧げて、日に向かって「今此三界（こんしさんがい）、皆是我有（かいぜがう）、其中衆生（ごちゅうしゅじょう）、悉是吾子（しつぜごし）、唯我一人（ゆいがいちにん）、能為救護（のういくご）」と唱へ奉ると見て驚けば、則ち聖人出生したまへり。「毎自作是念、以何令衆生、得入無上道、速成就仏身」と苦我（くが）��
（な）き玉ふ。我と少し未寝（まどろみ）し様なりし時、〔諸天頌の口決〕梵帝等の諸天一同音に唱へて言はく、善哉（ぜんざい）善哉善日童子、末法教主勝釈迦仏と三度唱へて作礼而去（さらいにこ）し給ふと寤（うつつ）に見聞きしなりと、慥（たし）かに語り給ひしを聞（き）こし食（め）し、さては某は日蓮なりと言（のたま）ひしなり。聖人重ねて曰（のたま）ふ様は、日蓮が弟子檀那等悲母の物語と思ふべからず、即ち金言なり。其の故は予が修行は兼ねて母の霊夢にありけり。）

日蓮は富士山自然（じねん）の名号なり。富士は郡名なり、実名をば大日蓮華山と云ふなり、」　とある。

　日興上人が日蓮大聖人の意によって筆せられた「安国論問答」には「聖人之を注し坐す」と認められ、明らかに日蓮大聖人が御生前に御印可なされたことを示している。

この「安国論問答」の中の

「本門弘通の事」には

「迹門　比叡山　本は日枝の山　吾山　御社」　とあり、

次に行を変えて

「本門　富士山　蓮華山　大日山」　とあり、日枝の枝の字より大日山の大の字にかけ、ななめに一線が引かれて対照されている。

これこそ日蓮大聖人が、迹門の小戒壇は比叡山に建立され、本門の大戒壇は富士山に建立さるべきことを明示されたものである。

　さらに第二祖日興上人の富士一跡門徒存知の事（一六〇七）には

「本門寺を建つべき在所の事。
　　（※　彼の天台・伝教は在生（ざいしょう）に之を用ひらるゝの間、直ちに寺塔を立てたまふ、所謂大唐の天台山、本朝の比叡山是（これ）なり。而るに此の本門寺に於ては、先師何（いず）れの国何れの所とも之を定め置かれず。）

　　爰（ここ）に日興云はく、凡（およ）そ勝地を撰んで伽藍（がらん）を建立（こんりゅう）するは仏法の通例なり。然れば駿河富士山は是日本第一の名山なり、最も此の砌（みぎり）に於て本門寺を建立すべき由（よし）奏聞し畢んぬ。仍って広宣流布の時至り国王此の法門を用ひらるゝの時は、必ず富士山に立てらるべきなり。」　　とある。

また同じく日興上人の五人所破抄（一六一三）には、富士山を辺鄙と下した
五老僧に対して

■　「日本は総名なり、亦本朝を扶桑国と云ふ。富士とは郡の号、即ち大日蓮華山と称す。爰（ここ）に知んぬ、先師自然の名号と妙法蓮華の経題と山州共に相応す、弘通此の地に在るなり。遠く異朝の天台山を訪らへば台星の所居なり、大師彼の深洞を卜して迹門を建立す。近く我が国の大日山を尋ぬれば日天の居住なり、聖人此の高峰を撰んで本門を弘めんと欲す。閻浮第一の富山なればなり。五人争でか辺鄙と下さんや。」

と破折されて、富士山こそ本門の戒壇建立の聖地なることをおおせである。

　三位日順の表白（富要二巻十一）には

■「我が朝は本仏の所住なるべき故に本朝と申し・月氏震旦に勝れたり・仍って日本と名く。富士山をば或は大日山とも号し・又蓮華山とも呼ぶ。此れ偏に大日本国の中央の大日山に、日蓮聖人大本門寺建立すべき故に、先き立って大日山と号するか。将た又妙法蓮華経を此の処に初めて一閻浮提に流布すべき故に蓮華山と名くるか。初め西より東に至るは猶ほ月の生ずるが如し、今亦東より西に伝ふ日の昇るが如しと云のも実なるか。麓には崇山四周を以て外郭と為る、天竺の王舎城にも超へ・漢土長安城にも過ぎたり、此の処へは帝都を立て一切衆生仏法を崇め奉らば、現世安穏・後生善処ならんこと何の疑い有らんや。」　とある。

三位日順は第二祖日興上人の学頭であったが、富士山に「大本門寺建立すべき」ことを述べたことは当然として、かくのごとく、日蓮大聖人を「本仏」と仰いでいることに大いに注意しなければなるまい。

　同じく三位日順の摧邪立正抄（富要二巻四三）

■　何に況んや中古の唐僧は閻浮無双の富士山・言ふ莫れ扶桑第一峯と称美讃歎してと云云、法華は諸経中の第一・富士は諸山中の第一なり。
　故に日興上人独り彼山を卜して居し爾前迹門の謗法を対治して法華本門の戒壇を建てんと欲し本門の大曼茶羅を安置し奉って当に南無妙法蓮華経と唱ふべしと公家武家に奏聞を捧げ道俗男女を教訓せしむ是即ち大聖の本懐御抄に分明なり」　　とある。

　三位日順の本因妙口決（富要二巻七八）に

■「第十一に彼の弘通は台星所の高嶺なり、此の弘経は日王能住の高嶺なり。御書す心如何。答ふ、彼の弘通は台星所居の高嶺とは天台大師漢土の天台山に於て弘め給ふ。彼の山の名を取って天台大師と云うなり。此れは弘経は日王能住の高嶺とは冨山をば日蓮山と云ふなり。彼の山に於て本門寺を建立す可き故に日蓮宗を立て給ふ事なり。彼れは迹門の本山、是れは本門の本寺疑ひ無きものなり。（※是れは深秘の法門なり。之れに付て多くの秘伝之れ有り習ふ可し。）」　とある。

　さらに日蓮大聖人御入滅後わずか九十九年以内にあらわされた妙蓮寺日眼の五人所破抄見聞（富要四巻一三）には

「拙い哉尊高の台嶺を褊し辺鄙之富山を崇む文。
　　凡そ三国ともに以て迹門の戒壇は理の戒壇なれば潔界の地也、三井寺より理の戒壇の外に事の戒壇在る可き也、山門にはせめての事に事の戒壇は山王社と云う四衆の人蹈む故に云云、然るに南瞻部洲第一の山に最も本門の事の戒壇建立在る可き大日蓮華山也、弘経の大導師の御名乗と此の山の名と自然符合の義殊勝也、爾るを五老一同に先聖までを誹謗する事悲む可き也、此の山に付いて差図と云う習い之れ有り云云、さては一門徒には叡山の戒壇を蹈むと云う近来の事也。

仏哲では省略

（※　一明静之止観を閣き仮字之消息を執す誠に是れ愚癡を於一身に招き耻辱於先師に及す者歟僻案之至り也甚だ以て然る可ら　不、若し聖人之製作と号し後代に伝んと欲せば卑賤之倭言を改て漢字を用ゆ宜く云云文。
　　夫れ三国に於て文字を用る事其説不同也、天竺には梵字あり漢には五音相通じて之れを訓む、漢土には蒼頡が鳥蹤を　　見て文字を作る音声呉漢の異あり、さて吾朝には道風仮字を作り用い来る也、字のがたち月形を借る道風は月天子の　　化身と云う説ある也。我月天子と成て迷闇の衆生を度すと云うは月天子の誓約也、而るに先聖既に日本国に出世して。　　同する和国に応仮字を以て梵漢の章疏を消釈し玉うに何物か是れに残る義分在る乎、鳴呼拙い哉其の国土に生れて其　　の風俗を知ら不、唯一辺に局して大聖の御妙判まで誹謗す抜舌の咎恐る可し慎む可し、去れば梵字悉且の書に云く梵　　字南天竺には国の形四角なれば梵字も亦四角也、故に南天竺出生の真言家には梵学を四角に書く也、東天竺、中天竺　　は長き国なれば梵字も長し、日本亦長き国なる故に仮字の形長し、故に本尊相伝鈔にかんまんの不動愛染の梵字、中　　天竺の仏法も国の形も相似たる故に長く書き玉う伝あり秘密の故に其の故を顕さ不、又悉且と仮字遣と相通ずる習も　　在り中ん就く先聖の御鈔は文字仮字にして滅後末法の法花経也、而るを仮字の消息等と謗ずる汝等は誰が弟子ぞ汝誰　　に依って智解を生じて此くの如きの謗言之れ在る耶。殊更に亦云はゞ我朝の風俗四十七字の仮字を以て三国の事を記　　すに余有て足ら不と云う事なし、是仮字の徳用ならずや、愚迷の者御教化之時愚癡無智の人に相応したる文字也法花　　経也、天台の釈義は漢字也文字は漢字なれども法門の位は奪って云う時は今約法花迹理と共成円乗開権妙観と釈する　　故に在世の法花は迹門也十如是の事之れを思う可し、与へて云う時は汝に非れば汝証せ不我に非れば悟ら不法花の前　　方使陀羅尼と矣、初旋陀羅尼をば一代の間には方等部也と釈するを引いて立正観抄に御判釈ある止観法花の勝劣、又　　は今の様なる法門を得て方等と云うは尤も三井寺好しと仰せ玉いし也、将亦法花経に妙覚の益を挙ぐる歟と云う時、　　三井寺には得無量無漏清浄之果報の文を妙覚の益と云う也。恵心流には挙げ不、若し在世の法花に妙覚の益を論ぜば　　滅後の本門の愚機如何んが有る可き耶云云、是れは恵心の義好しと云へり、是義は次でに書き出す也今の所用にあら　　ず、爾前迹門得果有無の義も三井山門の両流有る也。
　　但し止観明静前代未聞の故に聖人の御鈔を仮字消息と下す歟、漢字にして義を含する爾前迹門雙用権実の義を至極と　　する止観也両門の上の本迹の差別を御所判也、真実には文の底の大事也、止観には暗証の禅師誦文法師と云て一向に　　文字を以て説法を知ら不るも謂れ無く、又空観を旨として文字を用い不るも誤り也、所謂五老僧をば暗証の弾師ども　　誦文の法師とも云つベし、漢字計りに執して仮字の三国に通用する事も知ら不、和国に生れて和風を謗り、止観に心　　を掛け事相の広大なる行を謗ずる謬の甚しき者也、結句聖人の御妙判を漢字になをし私に抄を作って御製作と号す以　　ての外の僻事也曽て信用す可ら不、殊に御自製御自筆の諸御鈔を卑賤の和語と云う、滅後末代末法の利益の法花経を　　誹謗する事憐む可し生疑不信者即当堕悪道と云ヘり。
一日興が云く夫れ竜樹天親者即四依大士円頓一実之中道を申ぶと雖も而も権を以て面と為し実を隠て裏に用ゆ、天台伝教　者亦五品の行位専ら本迹二門之不同を分ち而迹を弘めて衆を救い本を残して末に譲る内鑒然りと雖も外時宜に適う之故　に或は不知之相を示し或は知て而未だ闡揚せ未ず、然るに今本迹両経共に天台弘通と称する之条経文に違背し解釈拠を　失す、所以に宝塔三箇の鳳詔に驚き勧持二万の勅答を挙て此土之弘経を申ぶと雖迹化之菩薩に許さ不、過八恒沙之競望　を止めて不須汝等護持此経示す、地涌千界之菩薩を召し如来一切所有之法を授く、迹化他方之極位尚劫数之塵点に暗し　止善男子之金言豈幽微之実本を許さん哉、本門五字之肝要者上行菩薩之付属也誰か胸臆と称せん哉【委細は文如経開見　可。】
　　凡そ竜樹天親は円頓の行者にして迹面本裏の故には我れ今時の教は或は権大乗又は迹門の時の導師なることを悲んで　　後五百歳遠沾妙道の時を羨み玉う末法之初冥利無きにあら不の事を忍ばせ玉う也、我れ其時導師に非る事の身を悲し　　み時を悔るを内鑒冷然と云う也、或は不知の相を示し或は知り乍ら時機来ら不る故に宣べ玉はず、縦ひ又機性有りと　　も時の至ら不る故也経に云く今正是其時文。
一次に天台大師経文を消するに如来之れを止め玉うに凡三義有り汝等各々自ら己住有り若し此の土に住せば彼の利益を廃　してん、又他方は此の土に結縁の事浅し宣授せんと欲すと雖も必ず巨益無けん、又若し之れを許さば則下を召すことを　得不下若し来ら不んば迹破することを得不遠顕すことを得不是れを三義と為す、如来之れを止め下方を召し来たらしむ　亦三義有り是れ我が弟子応に我が法を弘む応、縁深広を以て能く此の土に遍して益し分身土に遍して益し他方土に遍し　て益す、又開近顕遠を得是の故に彼を止めて而下を召す也文、又云く爾時仏告上行の下は是れ第三結要付属と云云。
　伝教大師本門を慕い正像稍過ぎ巳って末法太だ近に有り法花一乗の機今正く是れ其の時なり文、又云く代を語れば則像　の終り末の初め地を原れば則唐の東、羯の西人を尋れば則五濁之生、闘諍之時、経に云く猶多怨嫉況滅度後と此の言良　に以有かな也云云、之加大論の中に法花は是れ秘密諸の菩薩に付すと宣ぶ、今下の文の下方を召すが如き尚本眷属を待　つ験し余は末だ堪へ末、輔正記に付属を明す者此の経唯下方涌出の菩薩に付す何を以ての故に爾る法是れ久成之法なる　に由り久成之人に付す【論釈一非繁恐之略】、観音薬王既に迹化に居す南岳天台誰人の後身ぞ正像過ぎて而二干年末だ　上行之出現を聞末末法亦二百余廻、本門流布之時節也、何ぞ一部之惣釈を以て猥りに三時之弘経を難ぜん哉、次に日本　と者惣名亦本朝扶桑国と云う富士と者郡の号、即大日蓮花山と称す、爰に知んぬ先師自然之名号と妙法蓮花之経題与山　州共に相応す弘通此の地に在り、遠く異朝之天台山を訪うに台星之所居、大師彼の深洞を卜して而迹門を建立す、近く　我国之大日山を尋れば日天之能住、聖人此の高峯を選して本門を弘んと欲す閻浮第一の冨山也五人争でか辺鄙と下さん　哉。
　　是を以て末法付属の導師上行菩薩の再誕聖人の下種の益を募らんと大音声を以て説き玉うを声徹下方と云って本眷属　　を召して授与し玉う也、而れば遠令有在の故に宝塔品に於て今仏前於て自ら誓言を説けの大誓文を以て申し上げば御　　免有る可し、三箇の告勅、提婆品の二箇の諌暁己上五箇の鳳詔に驚いて勧持品の時五類の発誓弘経の望を申し玉うに　　止善男子云云、之れに付て天台大師前三後三巳上六の釈を儲け玉う也、文句の九に云く如来之れを止るに凡三義有り　　汝等各々自ら己住有り若し此の土に住すれば彼の利益を廃せん又他方は此の土に結縁の事浅し宣授せんと欲すと雖も　　必ず巨益無けん、又若し之れを許さば則下を召すを得不下若し来ら不れば迹破ることを得不遠顕すことを得不是を三　　義と為す、如来之れを止て下方を召し来たるに亦三義有り是れ我が弟子我が法を弘む応に縁深広を以て能く此の土に　　遍し益し分身土に遍して益し他方土に遍して益す、又開近顕遠を得ん是の故に彼れを止て而下を召す也文、前三の釈　　の心は観音薬王等の此土他土の菩薩の所望は神妙なれども西方弥陀の脇士は観音勢至、東方薬師の脇士は日光菩薩、　　月光菩薩、五仏の弟子各々己が住有り、若し此の土の弘経の導師を成さば各々所住の土の利益無からん、此の故に付　　嘱せ不、二には他方の菩薩は此の土に於て過去の結縁の事浅し譲り与ると云うとも利益有る可ら不、巨は大也広也、　　又観音称名の人定業を転ずる歟と云う論題あり、機感厚く尤も有縁ならば定業をも転ぜん、過去現在の縁の薫発之れ　　無からんに於ては定業を転ず可ら不と釈せり、是れ結縁の事簡要也と判せり、結縁の事浅き故に付属せ不、三には若　　他方の菩薩に深法を付嘱せば下方の法性の大地に処する下方の菩薩を召す事無けんと、若し下方の弟子来ら不れば今　　の釈尊十九出家三十成道の伽耶始成の仏なるベきを此の近情を破らん為に下方を召すに本弟子来り玉う雨の猛きを以　　て竜の大なることを知り蓮の大なるを以って池の深きことを知る、弟子の老たるを以って釈迦如来の古仏なることを　　衆生に知らしめん為に他方無縁の迹化に付嘱せ不、巳上三の謂れ在る也、将亦如来他方の菩薩の望を止めて下方を召　　すに三あり、一には是れ我が弟子なれば我が法を弘む応に、余の菩薩の望は尤もなれども釈尊の本弟子に非ず、上行　　等の菩薩は正的嫡々の直の御弟子にて之れ在れば尤応に我が法を弘む応と云へり、是れと云うを中道の異名と談ずる　　習ひ之れ有り、是は非に対する言ば也、其の非と云うは題目を忘れて自余の修行を成し導師の二途に亘る事也、我が　　法は是れ一大事也事の法也吾身本尊たる事を御付属有る也、五味の主の本門の教主の法度を指して中道我法と云う也、　　総じて名の体、体之体と云う事有り大切の事也、妙法は妙は褒美之言、法は機性の躰にして妙法蓮華経と呼ばれて応　　じて出でたるを見れば凡夫即極せる法躰を妙也と讃めたる言ば也、妙に別躰無く各々が家の褒美と判する也、応弘と　　者こたへてひろめよと云う義也、縱ひ三類の強敵重り起るとも能くこたへて中道の法を弘めよと云う事は即下種の題　　目の事也、而れば吾朝は日本国と名けて本門の大戒壇建立あって広宣流布すベし名の躰、躰の躰是れ也。
　　二には縁深広を以て能く此の土に遍して益し分身土に遍して益し他方土に遍して益す文、他方来の菩薩は正像に於い　　て二百年三百年弘通在すに本化の菩薩は万年の外未来際までも流布すべし無間地獄の道を塞ぎぬと判じ玉う也、迹化　　の諸菩薩は自有己住と云い、地涌菩薩は分身土、他方土に遍く御利益有る可き事は迹門の時より方域分限を指して浄　　土穢土の不同は有れども宝塔品にて三変浄土の之れ有るこそ本門寿量の遠序なれ、迹の時の好世の浄土は破れ失せて　　本門に至ては法界洞朗、通達無擬、如一仏土と在る時は此土、他土、分身土と云う事も無く日本、大唐、天竺総じて　　一閻浮提押並べて唯南無妙法蓮花経と一同に唱へ奉るべきを広宣流布とは申す也、迹門の時は大法東に漸と訓ず従因　　至果なる故也、本門の時は大法東より漸従果向因之義也、即広宣流布の故也、是れ日興上人之面授口決之御義也、御　　書に云く遵式の云く肇云く始め西自り伝ること月之生ずるが猶し今復東自り返る日之昇るが猶しと正像二千年には西　　自り東に流る暮月の西空より始るが如し、末法五百年には東自り西に入る朝日の東天に出るに似たり文。諫暁八幡抄　　に云く月は西より東に向へり月氏の仏法東へ移るべき相也、日は東より西へ入る日本国の仏法の月氏ヘ還るベき瑞相　　也、月は光明なら不在世は但八ケ年也、日は光り明かにして月に勝れたり後五百歳の長き闇を照すべき瑞相也文、大　　聖人肇公の釈を引いて広宣流布従果向因の証とし玉う也、後五百歳の中に広宣流布して閻浮提に於て断絶せ令る無し　　文、）※以上

広宣流布の事は本国、本山、本門、本戒壇、先聖の御本意の修行時を待つ可き而巳（のみ）の御相承今の御妙判経文等の義を以って意得可き也」　　と。

　左京日教の六人立義破立抄私記にも

■「三箇の秘法建立の勝地は富士山本門寺本堂なり、虚空不動戒、虚空不動定、虚空不動慧三学?伝名曰（ぐでんみょうい）妙法」　と。

　（このように、富士山を本門戒壇建立の地とする文献は

　「百六箇抄」

　「本因妙抄」

　「産湯相承事」

　「富士一跡門徒存知事」
　
　「五人所破抄」
　　
　「本門心底抄」

　「推邪立正抄」

　「本因妙口決」

　「五人所破抄見聞」

　「依義判文抄」
　
　「文底秘沈抄」等に数多く示されている）

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　⑥　富士山は最勝の地。

本門戒壇建立の地は、日蓮大聖人、日興上人等の言葉のように、富士山であることは明々白々である。

日寛上人は文底秘沈抄に、

■　「霊山浄土に似たらん最勝の地」とは富士山であり、富士山において本門の戒壇を建立すべき義を、三門に約して明かしている。三門とは、いわゆる道理、文証、遮難である。

この中から先ず道理を引用してみよう。

　道理とは、

一には日本第一の名山なる故に都良香の富士山の記に

「富士山は駿河の国に在り、峰削り成すが如く直ちに聳（そび）えて天に属（つ）けり、其の高さ測るべからず、史籍の記する所を歴覧するに未だ此の山より高きは有らざる者なり、蓋し神仙の游萃（ゆうすい）する所なり」　とある。

二には正しく王城の鬼門（丑寅、東北）に当たるが故に。

義楚六帖第二十一　五　に

「日本国亦倭国と名づく、東海の中に在り、都城の東北千里に山有り、富士山と名づく」　とある。

類衆一の末には

「天竺の霊山は王舎城の丑寅なり、震旦の天台山は漢陽宮の丑寅なり、日本の比叡山は平安城の丑寅なり、共に鎮護国家の道場なり」とある。

上野殿御返事（一五五八）には

■「仏法の住処・鬼門の方に三国ともにたつなり此等は相承の法門なるペし」　とある。

三には大日蓮華山と名づけるが故に。

神道神秘には

「駿河国大日蓮華山」　とある。

山の形が八葉の蓮華に似ているが故に名づけたのである。

神社考四には

「富士縁起に云く、孝安天皇九十二年六月富士山涌出す、乃ち郡名を取って富士山という、形蓮華に似て絶頂に八葉あり」　とある。
古徳の富士の詩に

「根は三州に跨がり、烟樹老ゆ峰は八葉に分れ雪華（せっけ）重なる」　とある。　　※烟（けむり・けむる）

すでに大日蓮華山とは日蓮山である故に、此の処において本門の戒壇を建つべきであると。

　次に、富士山をもって体となし本山となすべきことを、同じく日寛上人の文底秘沈抄によって示そう。

■　富士山をもって本山と仰ぐべき文理は明白である。

一には富士山は是れ広宣流布の根源の故に。
根源とは何ぞといえば、本門戒壇の大御本尊である。
すでに広布の根源の住なる故に本山と仰ぐペきである。

二には迹門をもって本門に例する故に。
迹門弘通の天台宗は天台山を本寺としている。

本門弘通の日蓮大聖人の仏法は日蓮山をもって本山となすべきではないか。

三には本門大戒壇の霊場なる故に。

およそ富士大日蓮華山は日本第一の名山にして正に王城の鬼門に当たる故に、本門の戒壇応に此の地に建立すべきであろう。

四には末法万年の
総貫首の所栖（しょせい）なるが故に。

身延相承書（一六〇〇）には

■「日蓮一期の弘法、白蓮阿闍梨日興に之を付嘱す、本門弘通の大導師たるべきなり」　とある。

血脈抄には

■「日興を付弟と定め畢んぬ。予が入滅の導師として寿量品を始め奉るべし。万年已後未来までの総貫首の証拠なり」とある。

五には一閻浮提の座主の所住なる故に。

日興上人より日日上人への遺状たる日興跡条条の事には

■「本門寺建立の時は日日を座主と為し日本乃至一閻浮提の山寺等に於いて半分は日目嫡子分として管領せしむペし、残る所の半分は自余の大衆等之を領掌すペし」　とある。

本山でなければどうして未来の総貫首および一閻浮提の座主と称しようか。

　さて、ここで身延戒壇説を破折しょう。

日蓮宗身延派は第二祖日興上人の身延御離山後、長く空白を続け、江戸時代初期に官権に阿（おもね）りようやく堂塔を建てた新興宗教であったが、日蓮大聖人の富士戒壇の御遺命に反逆して、身延戒壇説を唱えたことがあった。

以下、おおむね日寛上人の文底秘沈妙によって、身延戒壇説を粉砕する。

　すなわち日蓮宗身延派の身延戒壇説の主張は、身延山は蓮祖自らの草創の地で諸抄の中に「天竺の霊鷲山にも劣らず震旦の天台山にも勝れたり」等とあるから、霊鷲山に似たる最勝の地とは、これ身延山であるとい説である。

答う。最勝の地を論ずるに事と義がある。

富士山の最勝は事に約し、身延山の最勝は義に約するのである。

日蓮大聖人が九年間、一乗妙法を論談し摩訶止観を講演した故に、霊山金山洞にも劣らず、天台銀地峰にも勝るので、天台のいわゆる「法妙なるが故に即ち処尊し」とは、これである。

しかるに、正応元年の冬、日興上人が身延御離山の後は、身延ほ全くの謗法の地となった。

云うても余りあり、欺きても何かせん。

彼の摩梨山の瓦礫の土となり、栴檀林の荊赫となるにも過ぎた惨状である。

また日興上人も

■「地頭不法ならん時は、われも身延にほ住むまじ」との日蓮大聖人の御遺命に従い、本門戒壇の大御本尊等と共に本門戒壇建立の地、富士山大石寺に下られたのである。

三大秘法随一の本門戒壇の大御本尊は今富士山の下にある。

故に富士山即法身の四処である。

　また身延派では、身延山は蓮師の正墓であると主張するものがある。

しかし日蓮大聖人の御身骨は、正に日興上人御離山の日、謗法の山身延より、富士山の下に移し、今に大石寺に伝えている。

塔中の水精輪に盛りほとんど舛余（しょうよ）に満ちている。

故に日興上人より日日上人への御遺状、日興跡条条の事には

■「大石の寺は御堂と云い墓所と云い日日之を管領す」等とおおせである。

すでに本門戒壇の大御本尊を伝える故に御堂といい、日蓮大聖人の御身骨を付する故に墓所といい、正しく日蓮大聖人の御正墓は、今富士大石寺にある。

また仏法の本質からいえば、御正墓の存在のみならず法水の清浄も、また砕身の御舎利のみならず全身の御舎利も、富士大石寺にあることを知るべきである。

しかして、日蓮大聖人の法水、御精神は、永遠に謗法の地、身延山を去り、富士山に移り、富士大石寺において、ますます先師の旧業を継ぎ一塵の汚れもないのである。

故に身延戒壇説の如き、何ら根拠もなき妄説というべきである。

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（※以下　昭和四○年十二月八日　初版発行　）

⑦　本門戒壇建立の時期

本門戒壇建立の時期は、いつか。

日蓮大聖人は三大秘法抄並びに身延相承書に「時を待つべきのみ」といわれ、本門戒壇建立を滅後に遺付された。

前述した如く土木殿御返事（九六三）には　（※　富木殿御返事文永一〇年七月六日　　五二歳）

■「設（たと）ひ日蓮死生不定（ふじょう）なりと雖（いえど）も、妙法蓮華経の五字の流布は疑ひ無きものか。（※　伝教大師は御本意の円宗を日本に弘めんとす。）但し定慧（じょうえ）は存生に之を弘め円戒は死後に之を顕はせり。事相たる故に一重の大難之有るか。」といわれ

諸法実相抄（一三六〇）には

■「日蓮一人はじめは南無妙法蓮華経と唱へしが、二人・三人・百人と次第に唱へつたふるなり、未来も又しかるべし、是あに地涌の義に非ずや、剰へ広宣流布の時は日本一同に南無妙法蓮華経と唱へん事は大地を的とするなるべし」と、

上野殿御返事（一五三九）には

■「梵天・帝釈等の御計らひとして、日本国一時に信ずる事あるべし。爾（そ）の時我も本より信じたり我も本より信じたりと申す人こそ、をヽ（多）くをは（在）せずらんめとおぼえ候。」　とある。

　しかも三大秘法抄には、広宣流布、本門戒壇建立の時を

■「有徳王（うとくおう）・覚徳比丘（かくとくびく）の其の乃往（むかし）を末法濁悪の未来に移さん時、」とおおせである。

その時こそ、今であることは論をまたない。

覚徳比丘とは七百年間、日蓮大聖人の正義を清純に守りぬいてきた日蓮正宗であり、有徳王とは、涅槃経の

■「外に清浄の檀越あって仏法を久住す」とあるごとく、創価学会の姿が、まさにそれである。

本門の戒壇建立について創価学会第三代池田大作会長は

「末法の戒壇堂は、僧侶の受戒の場所であった昔のそれとは違う。
昔は勅命でただちに戒壇を造ったが、いま末寺で御授戒は、どんどん行なわれている。
下からだんだん盛り上がってきて、最後に本門の戒壇が建つ。
国立戒壇という言葉は本来、日蓮大聖人の御書にはないし、現代はあくまでも全民衆の要望によって成就され、全人類のために建てらるべき、民衆立の戒壇である。
昭和四十年十月十二日に八百万人による御供養が達成され、四十五年十月十二日に建立される富士大石寺正本堂こそ、事実上の本門の戒壇ともいうべきものである」等と、その意義を明らかにしている。

　日蓮大聖人の法体の広宣流布は、弘安二年十月十二日の本門戒壇の大御本尊建立であられた。
しかして本門の戒壇建立こそは、化儀の広宣流布の達成であり、王仏冥合実現の時である。
そして、これは東洋広布、世界広布の規模において考えなければならない。

顕仏未来記（五〇八）には

■「月は西より出でて東を照し日は東より出でて西を照す仏法も又以て是くの如し正像には西より東に向い末法には東より西に往く」とあり、

諌暁八幡抄（五八八）には

■「天竺国をば月氏国と申すは仏の出現し給うべき名なり、扶桑国をば日本国と申すあに聖人出で給わざらむ、月は西より東に向へり月氏の仏法の東へ流るべき相なり、日は東より出づ日本の仏法の月氏へかへるべき瑞相なり、月は光あきらかならず在世は但八年なり、日は光明・月に勝れり五五百歳の長き闇を照すべき瑞相なり」　とある。

立宗七百年やや過ぎた昭和三十六年二月、日蓮正宗第六十六世日達上人および創価学会第三代池田大作会長が、相たずさえて、インドの地、とくに仏陀伽耶にいたり、釈尊成道の地に日蓮大聖人の三大秘法抄および東洋広布の礎石等を埋め、高らかに三大秘法の大仏法広宣流布を宣言されたのである。

　聖人知三世事（九七四）には

■「日蓮は一閻浮提第一の聖人なり」とある。

一閻浮提とは、現在、世界の異名というべきである。

撰時抄（二五八）には

■「法華経の肝心たる南無妙法蓮華経の大白法の一閻浮提の内・八万の国あり其の国国に八万の王あり王王ごとに臣下並びに万民までも今日本国に弥陀称名を四衆のロロに唱うるがごとく広宣流布せさせ給うべきなり」　とある。

これ世界広布の御予言と拝せる。

御書中に類文は実に多い。

法体の広宣流布の時には、立正安国論に示された三災七難とくに蒙古襲来という他国侵逼難があったが、現今も同じく世界的な三災七難、第三次大戦の危機をはらんで、化儀の広宣流布、王仏冥合実現近しを思わせる。

　大悪大善御書（一三○○）には

■「大事には小瑞なし、大悪を（起）これば大善きたる、すでに大謗法・国にあり大正法必ずひろまるべし」　とある。

現代は交通通信の発達した世界の交流時代である。
しかも思想的にも日本では封建思想、帝国主義、自由主義、唯物思想と、西欧でも古代ギリシャ哲学、キリスト教哲学、ルネッサンスの啓蒙哲学、観念哲学、唯物哲学と変転し、唯心唯物思想の相剋は、まさに新しき色心不二の大生命哲学、仏法民主主義、．第三文明の思想の確立の時を示し、これこそ広宣流布、王仏冥合の達成近きを示すものである。

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