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    上野殿尼御前御返事 文永一一年  五三歳

 鵞目(がもく)一貫給(た)び候ひ了んぬ。

 それ、じき(食)はいろ(色)をまし、ちから(力)をつけ、いのち(命)をの(延)ぶ。
ころも(衣)はさむ(寒)さをふせぎ、あつ(暑)さをさ(障)え、はぢ(恥)をかくす。
人にもの(物)をせ(施)する人は、人のいろ(色)をまし、ちからをそえ、いのちをつぐなり。
人のためによる火をともせば人のあかるきのみならず、我が身もあか(明)し。

されば人のいろをませば我がいろまし、人の力をませば我がちからまさり、人のいのちをのぶれば、我がいのちのの(延)ぶなり。

法華経は釈迦仏の御いろ、世尊の御ちから、如来の御いのちなり。
やまいある人は、法華経をくやう(供養)すれば身のやまいうすれ、いろまさり、ちからつき■■■何文字か欠損■■■てみればもの(物)もさわらず、『ゆめうつヽわかずしてこそをはすらめ。』(不明)(夢か現か区別がつかないような状況でいらっしゃることでしょうか ★「ゆめうつヽわかたずしてこそをはすらめ」というのは、平安時代の歌人、紀貫之の歌の一部 ★「ゆめうつヽわかたずしてこそをはすらめ」は、紀貫之の『古今和歌集』に収められている有名な和歌です。歌の全体は次のようになります。
「ゆめうつヽ わかたずしてこそ をはすらめ いかにかけむ あかつきの空」この歌では、夢の中で出会った相手との別れの切なさや、現実との違いを感じながらも、その思いが残っていることが表現されています。平安時代の恋愛観や情感が色濃く反映されている名歌ですね。)

と(訪)ひぬべき人のとぶらはざるも、うらめしくこそをはすらめ。
女人の御身として、をやこ(親子)のわかれにみをすて、かたちをかうる人すくなし。
をとこ(夫)のわかれは、ひヾ(日々)よるよる(夜夜)つきづき(月月)としどし(年年)かさなれば、いよいよこい(恋)しさまさり、をさな(幼)き人もを(在)はすなれば、たれ(誰)をたのみてか人ならざらんと、かたがたさこそをはすらるれば、わがみ(我身)もまいりて心をもなぐさめたてまつり、又弟子をも一人つかわして御はか(墓)の「不明                                  」一巻の御経をもと存じ候へども、このみ(身)はし(知)ろしめされて候がごとく、上下ににく(憎)まれて候もの(者)なり。