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日蓮正宗要義　 (二)　大小相対

　要するに大小の対立は、釈尊の滅後、その教えの伝習について、

進歩的態度をとった大衆部　と、
保守的態度をとった上座部　とに分かれたが、

この　進歩・保守　の二派が更に　二十部派　までに分裂した。

これは釈尊の入滅を転機として、教団の維持と存続の必要から、教法や律法について、

文字どおりに解釈して伝統を重んずる者　と、
文字に拘泥せず、教律の真意を把握し、その精神を顕わそうとする者　

とが相対立し、

前者は　上座部　となり、
後者は　大衆部　となったのである。

この対立の中から次第に両者を止揚した思想的立場において、釈尊の正法と真意を顕彰しようとする思想が「酉＋因↓皿」醸（うんじょう）（※物事をほどよく調和させる）され、次第に大きな位置を占めるようになった。

それが自らを　「大乗仏教」　と称し、
それ以前の上座部系の仏教を指して　「小乗」　と呼ぶ形として現われてきたのである。

小乗の　上座部　が　保守的、伝統的、形式的、客観的　であるのに対し、
大衆部　は　進歩的、創造的、実質的、主観的　な立場の相違があった。

しかるに　大衆部　は、大乗仏教　の母胎となり、大乗興起の後は大部分、その中へ包括されたのである。

故に根本仏教としての釈尊の教義が定まってより、上座部・大衆部の対立を経て興った大乗仏教は、まさにその総合の位置にあったといえる。

すなわち根本仏教より部派仏教へ移行するに従い、次第に　上座部　系統では、仏教以外の思想見解であった　万有実有論・心不浄説等　のごとき　非仏教的見解　を持つに至ったが、このような　部派仏教　そのものの中から

反省し、進んで仏陀の根本仏教へ復帰しよう　　とする人々が現われた。

それが　大衆部　から　大乗運動　を興した人々である。

故に　大乗仏教　は従来の仏教に対し、新しい要素を加えて新たに生まれ出たわけではなく、部派仏教　が自ら反省し、仏陀の教法である　

「縁起論」への復帰　を志願したところに、新しい教学が興ったというべきである。

　換言すれば、

仏教を単に教理として、伝承維持する態度が小乗的　　であり、

これに対し

仏教を自らの解脱の道として実践する態度が大乗的　　といえるのである。

「菩薩の行」、「成仏の道」　もこれを客観的に眺めるのでなく、自らの実践の立場より見るとき、

「三世実有法体恒有の客観的実有観」より
「相資相依の関係による縁起説」　をとることとなる。

つまり、

上座部系統においては、一切の現象は各別の実体が存するという実有説を採るが、このような考え自体、仏陀の根本的思想と相違する。

上座部の註釈的・分析的な教法解明の方法による結果、いつとなく外道の哲学的思惟を採用して、その立場から仏教を理解し組織するに至った。

故に根本仏教より大乗仏教に至るまでの、思想の全体を概観して正閏（せいじゅん）（※正統か正統でないか）を論ずるとき、

上座部系統　はむしろ傍流で、
大衆部　こそ正流ということができる。

その立場から止揚された大乗もしかりであって、むしろ

大乗こそ仏陀の根本精神を伝えつつ　民衆救済の実践に邁進した　のである。

　したがって　大乗非仏説　のごときは、表面の相のみを見た軽率な判断といわざるをえないのである。

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御法主日顕上人猊下御説法
　　　　　『観心本尊抄』（41）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　昭和六十一年九月四日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　法霑寺本堂・客殿新築落慶入仏法要の砌

一代経を一経として見るということはどういう意味を持つかということですが、これはたいへん大事なことであります。

すなわち、
仏教を如実に見る、
衆生の得道のため、幸福のための最要の教えとして見る、

そのための素直な見方がこの全体観による見方であります。

しかるに、今の仏教学者が色々と言っているのは、仏教を分けてこま切れにして論ずるのみで、少しもその実益がありません。

　昔、日本にも富永仲基とか平田篤胤というふうな人間が出て、外道的見解で「大乗非仏説」などを論じました。

それから、最近の各宗の僧侶や仏教大学の研究者が色々と研究し、お経文の内容において色々な形をほじくってみると、たしかに色々と時間的な差別がある。

そういうところからずっと研究してみると、
「これはどうもお釈迦様の時代に一ぺんに出来たものではなく、あとからどんどん付け加えられたものだ、だから結局、これはお釈迦様が実際に説いたものではない」
と言うのです。

　さらに進んで、今度は、
「法華経は法華経、華厳経は華厳経、涅槃経は涅槃経、般若経は般若経と、色々な経典はみんな、釈尊よりずっとあとの時代に仏教学者達が集まってそのようなものを作ったのだ」
と、こういうふうに解釈をしまして、そういう形だけから仏教を見ておるのが、今の各大学の仏教学者の教えていることなのです。

　こういう考え方から見ての仏教の把握の仕方は間違いであります。
これが、今の学者が今どきの頭なのです。
これは貪瞋癡の三毒充満の境涯からの仏教思想なのです。
貪瞋癡の三毒が充満していると本当のことは判らないのです。

人々の生活でも、貪瞋癡の三毒充満しているような命だとすると、夫が妻の気持ち、妻が夫の心が判らないのです。
子供の気持ちも判らない。
だから皆、おかしくなってしまうのです。
そこは正しい信心をもって、命がきちっとしてくると色々判ってきますね。
そのようなものなのです。

　だから、今どきの人間がお経文を読んだとしても、そういう経々の違いだけを部分的に拾い集めて、どうの、こうの言うのですが、その一番元になった、経文が出来てきた元の仏の絶大な威徳と、そして、それを受けきってきた修行者の境界というものを今の連中は知らないのです。

それを知らないでいて、凡智の推測で色々なことを、どうの、こうの言っております。

　たしかに昔のインドの時代、特にお釈迦様が出現された頃は物に書き付けていく習慣がなかったのです。
だから全部、お釈迦様も深い意義・内容を心から心に、あるいは言葉において弟子達に伝えたのである。
しかも、それを聞く弟子達の能力がまた、すごいのです。
一ぺん聞いたら何年経っても忘れない。
それから、それを話す人がまた、それを正確に伝えていく。
そういうことはやはり宗教の深い悟りの上からの、教えるほうと教わるほうの、お互いの深い境界があるのです。
したがって釈尊時代の、久遠の昔からの仏法の因縁のある人達の話、教え、教えられた内容というものは、そのまま伝承するのです。
それがだんだんと伝わってきて、ある時に至って言葉をもってそれを結集するという形が、あとで出たわけです。

　その結集という形のなかから、その時代に既にあった事柄を多少付け加えたことはある。
それを一々取り上げて、「これはこうだから、ああだから」といって、逆に元へ戻していって、「釈迦の教えに大乗はなかった」というような言い方をするのですが、それは違うのです。

　結局、結論を言えば、「お釈迦様が説いたのは小乗だけで、大乗は全く説かれなかった」と言うけれども、けっしてそのようなことはない。
お釈迦様の悟りの内容のなかに、今日伝わっておる経文・経巻の、大乗、小乗、法華経に至るまで、その深い意義がおわしまして、それをまた、さらに種々の衆生に示されておる。
それがやはり深い境界の上から伝承されてきたのが別の形において出てきておる。

　ただしそこに、ある時代には既に、ある経巻が出てきておりますから、そういう場合には、その経巻のなかに示される内容が、そののちの経文のなかに出てくる場合もある。
しかしそれは、あとからさらに入れたのであって、どうということはない。
それがあるから、「何もかも初めからなかったのだ、全部あとから作ったものだ」と言うのは、近視眼的な、部分に執われた見方です。
仏教はもっと大きく、究極の意義を中心として全体観の上に見るべきであります。
すなわち、天台、伝教等、そして宗祖大聖人の御指南の見方が正しいのであります。

　要するに、仏教の根本精神の上からの仏様の悟りの境界における衆生に対する働きかけ、また衆生がそれを受けきってそれを行じ、また、そのお弟子達が次の時代に伝えていくという境界というものは初めから絶えることなく、ずっとあるのです。
したがって、そういうところから、大乗の教えはすべて釈尊が説かれたということになっておるのは正しいのであって、やはり一番根本にその理由があるということをよく考える必要があります。

　ですから、ここに大聖人様が、既に七百年の昔に天台の教判の精神をお受けになって、お釈迦様の一代仏教のなかで
「惣じて之を括るに但一経なり」
ということをおっしゃっておるのであります。

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御法主日顕上人猊下御説法
　　　　　『観心本尊抄』（43）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　昭和六十一年十月七日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　広説寺移転新築落慶入仏法要の砌

　今、「大乗非仏説」などといって、今どきの人の浅智慧で色々と言うけれども、それは仏法というものの悟り、特に当時の人の悟りの深さや、その境界を知らないのです。
だから、例えば「聞持陀羅尼」というような境界を得たとか――いわゆる「法身の授記」といいまして、妙法の深い法によって得るところの分々の用きを得て、その人々が、あるいは三生に成仏ができるような、あるいは四生に成仏できる、あるいは一生に成仏できるというような、様々な功徳を得たということが示されてある。

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御法主日顕上人猊下お言葉
　　　　　法華講連合会
　　　　　　　夏季総登山会お目通りの砌
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平成元年七月二十八日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　於　総本山大書院

　仏法という教えは色々な角度から色々な見方もあり、最近の新しい研究では様々な言い方もしておるけれども、要するに何かといえば、釈尊がインドに出現されて説かれ
た一切の教えが実際、現在、五千・七千の経巻として残っておるのです。

しかるに大乗非仏説を主張する連中は色々なことを言いますが、しかし仏法全体を一括して一つのものとして捉えなければ仏法というものの意義や在り方はどこへいくか、どこかへ飛んでいってしまう。

　ですから結局、天台大師という方が一代仏教を全部一つのものとして捉え、その釈尊の説かれた内容のなかにおいての取捨選択、いわゆる判釈をされ、法における方便と真実というような問題をあらゆる角度からきちっと論証をされました。

その結果、法華経が最も正しく勝れており、一切の人々の生命を完全に説ききって、しかもその正しい指導の方向を示し、永遠における生命の自由自在なる境界を法華経のみにおいて説かれておることが、色々な先師、先哲の指南によっても明らかでございます。

　そこのところを最後に末法の立場において、それらの仏教が権実雑乱し、本迹雑乱し種脱雑乱しておるが故に多くの人が仏法を誤って罪業を作っておる、その根本は仏法の正法正義を忘れておるところにあるということを我々僧俗がしっかりと肚に入れて、そこからまず一歩、二歩、進んでいく、その覚悟を講頭さんの方々にお願いしたいのでございます。

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御法主日顕上人猊下御説法
　　　　　撰時抄　（六）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　昭和五十六年四月十日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　蓮興寺新築落慶法要の砌

　今、あちらこちらに他の各宗旨の仏教大学があり、他宗の僧侶がそこで学んでおります。
その彼等の考え方は、僧侶でありながら信仰を忘れてしまっておるのです。

それで、今の科学的な考え方などというもので仏教をこま切れにして勉強をしているのであります。
しかも、そのこま切れにした一つを一生懸命に勉強し、それで博士号を取っております。
まあ、博士号を与えるほうも与えるほうだと私は思っているのですが、本当に全体観というものがないのです。
ということは、信仰がないということであります。

　釈尊の仏法といっても、信心を根本としなければ、本当の釈尊の仏法はつかめないと私は思っております。
それを、こま切れにして研究し、挙げ句には
〝竜樹、天親が行ったものは、釈尊にはなかったんだ〟
というようなことを言い、「竜樹、天親等の人々が出てきて初めて、そういうものを作り上げたのだ」と言います。

あるいは経文も、これは「大乗非仏説」で、「釈尊が説いたものは小乗しかない」と、そのように非常にちっぽけな考え方を言うわけです。

　しかしながら釈尊は、全部の境界をおもちになった上から、法を説かれておるのです。
それが、その後の人師等において、その時代、その時代に応じた形で顕われてきておるのであります。
ですから、ここに「竜樹・天親等は内心には存ぜさせ給う」とお示しの如く、それらの人師等はすべてきちんと知っておられる、知っておられたけれども、そのうちの法華経の部分は説かれなかった、ということでございます。

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　御法主日顕上人猊下御説法
　　　　　撰時抄（十四）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　昭和五十六年十一月三十日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　専修寺新築落慶法要の砌
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　全集二六八㌻三行目～同㌻一四行目

　密教というのは、その成立からいうと、一代仏教のなかにおいて一番最後に出来たということは現在の学者の統一した見解であります。
たしかに「大乗非仏説」というようなことも色々とあって、経典の解釈や見方は非常に複雑な意味もあります。
しかし私どもは、やはり今日の研究とはまた別個において、釈尊一代の化導のなかに大乗の意義がなかったことはあり得ない、と私は信じております。

学者によっては、「釈尊一代の教えは小乗仏教だけだったのであって、大乗仏教というような思想はあとから、二百年、三百年、五百年と経ってから出来てきたのだ」というようなことを今の学者は言います。
しかしそれも、そういうことが出来てきたということの元に、やはり釈尊の大きな悟りのなかにすべての義が具わっていたのである、こもっていたのであるということを私は信じておるのであります。

　それが色々な形として現れるのは少し後世であったかも知れません。
しかし、昔の人は今の人達の考え方とは違いまして、今の人ならば到底、理解できないような記憶力と、それから根力、通力があるのです。
これはもう我々や皆さんが到底、真似のできるものではありません。
ですから、全身全霊をもって聞いたことは絶対に忘れませんし、それをまた次の者に伝え、また次の者に伝えていくというように、だんだん、だんだんと伝えていっているわけなのです。
その根力がどのように優れておるかということは、仏教を学ぶとよく解るのであります。

　今の人は何を聞いてもすぐに忘れます。
くだらないことは覚えていても、特に難しいことはすぐに忘れてしまいます。
しかしながら、釈尊時代の人は非常に根力が優れていたということを、よく聞くでしょう。
御書にもその趣旨で色々な御指南があります。
そういうことですから、聞いて伝承したことがだんだんと後世になって、大乗仏教として現れてきたのであります。

　その現れたことだけを見て「このような内容はある時期以降にならないとそのような文献がないから、のちの時代につくられたものである」というように思い込み「大乗仏教と
いうのはずっと後になって出来たものである」というふうに今の学者は簡単に言いますけれども、私は「そのようなことはない」と確信しております。
やはり釈尊の一代の教え、また、その思想は初めより小乗、大乗のすべてが具わって、その上から説かれたのであるということです。
ですから当然、法華経も釈尊が実際にお説きになった教えであると、私は信ずるのであります。

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　御法主日顕上人猊下御説法

　観心本尊抄（23）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　昭和六十年十二月二十日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本蓮寺新築落慶入仏法要の砌

　今、「大乗非仏説」などということを言って、「お釈迦様は小乗仏教の、ほんの少しの教えしか説いていないのだ」などということを言っているような学者がいますが、今の学者などというものは遠視眼か近視眼のどちらかなのです。
だから、ずっと遠いほうのことが見えて近くが見えなかったり、近くが見えて遠くが見えなかったりで、色々な学説は出るけれども、その学説が少しも正しい仏法の筋道・肯綮（物事の急所。かなめ。）に当たっておりません。（※肯綮に中る(コウケイニアタル)意見などが、ぴたりと要点をつく。）

したがって、そのような学説によってだれ一人として救われるか、だれも救われない。
だれも救われないどころではなく、今の邪宗の僧侶どもは高い金を出して大学へ行って、くだらない大乗非仏説だとか何かを勉強し、そして「これが本当かな。しかし、そうしてみると、うちの宗旨は立たなくなるはずなのだが……。まあ、あれも商売だし、どうせ檀家の人は何も解っていないから、葬式の時に解らないお経をあげてさえいればよい」と、そのような程度なのです。
したがって、大学を卒業したとはいっても何も解ってはいない。
だいたいその仏教大学の先生が生きた仏教の本質を忘れて形骸を教えているのですから。

　結局、それはそういう見方も一分、一分、研究によってできるかも知れない。
しかし、釈尊が大乗を全く説かれなかったとか、釈尊の教えのなかに大乗はなかったというようなことは、私は絶対に信じません。
それはたしかに、経典としての現れ方はあとから来ているかも知れません。
だんだんと口から口へと伝わったのですから。

　日本の神道のほうでも祝詞というのがあって、昔からの神様の行事とか色々なものは口から口へ伝わってずっと長い間、来たのです。
お釈迦様の仏法の場合は実に縦横無尽な、宇宙法界の、人生の道理を説かれてありますから、そこに時代によって移り変わっている面も多少はあるでしょう。
けれども、ずっと伝わりながら来て、それがある時期に結集された。
したがって、小乗仏教の結集だけが歴史に残っているから大乗仏教はあとから出来たものだと言うのだけれども、そのようなことはない。
一番根本の大乗の内容も釈尊が説かれたなかに含まれているのです。

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